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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)762号 判決 1973年1月31日

主文

一  被告は原告渡辺あい子に対し金二三万八三六二円、原告渡辺凱夫、原告鈴木俊子、原告渡辺彰、原告渡辺進に対し各金一一万九一八一円および右各金員に対する昭和四七年二月九日から支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は十分しその一を被告の、その余を原告らの負担とする。

四  この判決は主文第一項に限り仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告渡辺あい子に対し、金三、五七三、〇〇七円也、原告渡辺凱夫、原告鈴木俊子、原告渡辺彰および原告渡辺進に対し、各金一、七八六、五〇四円ならびに右各金員に対する昭和四七年二月九日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え

2  訴訟費用は、被告の負担とする

との判決ならびに仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

訴外亡渡辺林吉は次の交通事故により死亡した。

(一) 発生日時 昭和四六年一月一四日午前九時二三分頃

(二) 発生地 東京都大田区東馬込一丁目二一番四号先交差点(信号機なし)

(三) 加害車両 小型貨物自動車(品川四う四九三九号)

運転者 訴外高橋幸野

(四) 被害車両 スパーカブ(五〇CC原動機付自動二輪車)

運転者 訴外亡渡辺林吉

(五) 態様 前記交差点において加害者両と被害車両とが出合頭に衝突したため訴外渡辺林吉は昭和四六年一月一七日午前七時頃全身打撲と頭蓋底陥没により死亡した。

2  責任原因

(一) (人損について)

被告は加害車両を所有してこれを自己のため運行の用に供していたから自賠法三条の責任がある。

(二) (物損について)

被告は訴外高橋幸野の使用者であり、訴外高橋をして当時加害車両を被告の業務に従事させていたところ、同訴外人には交差点進入に際して一時停止の標識を無視しかつ、優先道路から原動機付自転車が先入していることを無視ないしは漫然と見過した不注意があつたから、民法七一五条の責任がある。

3  損害

原告らに生じた損害は次のとおりである。

(一) 葬儀費用 五〇〇、〇〇〇円

(二) 物損 一万五〇〇〇円

(三) 亡林吉の逸失利益現価 一〇、一二六、五九四円

訴外渡辺林吉は事故時の年令は五九歳一ケ月余、推定余命は七・九年であり昭和四五年度の年間総収入は金一、七六四、八九四円であるところ、右金額から控除すべき生活費は月額一九、〇〇〇円(昭和四三年全国全世帯平均家計調査報告によると月収一〇万円をこえ一五万円未満の者の生活費と示されたもの)であり右生活費は年額に引き直すと金二二八、〇〇〇円であるから前記年間総収入から右年間生活費を差引いて得た年間純利益は金一、五三六、八九四円となりこれに推定余命七・九年に相当するホフマン係数を乗じて得た得べかりし利益は金一〇、一二六、五九四円となる。なお自賠責保険金受領分四八二万七〇四円をこれから控除する。

そこで原告渡辺あい子は訴外渡辺林吉の配偶者として右損害賠償債権の三分の一に相当する金額を相続し、その余の原告らは同訴外人の直系卑属としてその各六分の一に相当する金額を各相続した。

(四) 慰謝料 金四、〇〇〇、〇〇〇円

原告らに対する慰藉料は合計四〇〇万円(原告あい子はその三分の一、その余の原告らは各六分の一)が相当である。

(五) 弁護士費用 金一、三九八、一三三円

本訴追行のため原告らに必要となつた弁護士費用の合計額である。(原告あい子はその三分の一、その余の原告らは各六分の一)。

4  よつて被告に対し原告渡辺あい子は金三、五七三、〇〇七円を、その余の原告らは各金一、七八六、五〇四円および右各金員に対する訴状送達の日の翌日である昭和四七年二月九日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による金員の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2の(一)(二)の事実は認める。但し故意に一時停止の標識等を無視したのではない。

3  請求原因3の損害関係については争う。但し、相続、および自賠責保険金の受領の事実は認める。

三  抗弁

1  弁済

原告らは原告ら自陳の部分を含め自動車損害賠償保険金として合計金五、〇〇六、八〇〇円を受領しているほか被告は原告らに対し合計三九万三四〇四円の弁済した。

内訳

内金 一五〇、〇〇〇円

治療費 金一二〇、七〇〇円

看護費 金一二、七〇四円

フトン代雑費 金一〇、〇〇〇円

葬儀費 金一〇〇、〇〇〇円

2  過失相殺

訴外渡辺林吉にはつぎのとおり過失があるので本件に於ける過失割合は原告側三五パーセント、被告側六五パーセントである。

(一) 本件のような見通しの悪い交差点では徐行すべきであるにも拘わらず徐行しないで時速四〇キロメートルで進行していた。

(二) 都条例に定めるヘルメツトを着用しないで原動機付自転車を運転し、しかも本件事故による死因が頭蓋骨骨折であつた。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1のうち自賠責保険金五〇〇万六八〇〇円を受領したことは認めるが、そのうち四八二万七〇四円については本訴請求分から控除済である。その余の弁済分につき金額的に二六万五〇〇〇円を受領したことについては認めるが、その余(治療費、看護費、雑費)については不知。

2  抗弁2の事実のうちヘルメツトを着用していなかつた事実は認めるが本件事故の態様からするとき被害の結果に影響なくむしろ深刻な事態さえ予測できるものであるので被害者の過失として参酌されるべき事由にあたらない。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1の事実同2の(一)および訴外高橋に一時停止義務違反の過失があることについては当事者間に争いがない。そうすると被告は人損につき自賠法三条、物損につき民法七一五条の責任がある。

二  そこで次に本件事故の過失関係について判断する。

〔証拠略〕によればつぎの事実が認められこの認定を左右するに足りる確証はない。訴外高橋幸野は、別紙図面の下から上方に向けて時速三〇キロメートルで進行していたが交差点より下方の<止>の地点には、一時停止の標識が立つており交差点手前で一時停止しなければならないのに一時停止の標識を対向車に気をとられていたため見落し、そのまま特段減速することなく交差点に進入しようとして同図面<1>の地点に達したところ、同図面の右から左に向けて道路上を約時速四〇キロメートルで進行しつつある訴外渡辺林吉の運転する被害車が同図面<ア>の地点にさしかかつて来たのを発見し危険を感じて直ちに急ブレーキを踏んだがまにあわず、同図面<2><イ>の地点で加害車両前部を被害車両の中部左側側面に衝突せしめその衝激と被害車両の直進の慣性により同車を同図面ウの地点にはねとばしブロツク塀に衝突せしめるとともに、被害者渡辺を同図面エの地点にはねとばしたこと、本件交差点は加害車進行道路被害者側進行道路双方ともに相手方道路に対する見通しが悪く交差点に進入したのは両者ほぼ同時であつたこと、訴外渡辺林吉はヘルメツトを着用していなかつたこと、同訴外人は特段徐行していなかつたこと。右各事実によれば、交通整理の行なわれていない見通しのきかない比較的幅員の狭い道路が交わる交差点で加害車両は単に一時停止の標識を見落しているだけでなく、かなりの速度で交差点に進入しようとしたものであつて、その過失は大きく、前記速度を前提とすると被害車両はほとんど避けるいとまもなかつたものと言わざるを得ない。しかし被害車両も仮りに徐行して進入すればかろうじて衝突を避け、又衝突を避けられないとしてもブロツク塀に激突することは避けられ、危険防止のためヘルメツトを着用していたとすれば乙第三号証でも明らかなように、同人の頭部以外の傷害が軽微であり、死因は頭蓋骨骨折であつたことを考え合わせるとやはり被害者にも本件事故に基づく損害の発生に寄与した落度があつたと言うべきである。そうすると後記賠償額を定めるにあたり二割五分程度の過失相殺をするのが相当と認められる。

三  次に原告らに生じた損害について判断する。

本件事故に基づく損害は別紙計算書のとおりであると認められる。

まず葬儀関係費用については、原告らの主張額程度の出捐も考えられないではないが本件事故と相当因果関係のある範囲のものは三〇万円が相当と認められる。

次に逸失利益について判断するに、〔証拠略〕によればつぎの諸事実が認められる。訴外渡辺林吉は本件事故当時五九歳であり、昭和三五年ごろから死亡直前まで大田区東馬込二―七―四において機械部品の加工、組立て業を一人で行つており、その仕事の収入は最近では安定していてかつ材料を発注者が提供していて経費が余りかからないものであること、昭和四四年一月から一二月までの年間所得として税務署への所得申告額は金一、七〇〇、〇〇〇円であつたこと、同人は借家し配偶者一人を扶養し、過去においては子供三人を育ててきたことが認められる。

右事実によると同訴外人の職種からして余命年数の半分程度に相当する四年間(六三才まで)は前記収入を得ることが出来たものと言うべきであり、生活費としては本人自身の生計費、多少の収入を得る上での必要経費、公租公課を考慮すれば収入の四割程度がこれにあてられたものと見れば十分であると解される。中間利息の控除については年五分の割合による複利年金現価計算(ライプニツツ式係数三・五四五九)によることとする。

慰謝料については、訴外渡辺林吉と原告らの身分関係、同訴外人が死亡することによつて蒙つた原告らの精神的苦痛の程度、生活への影響の大小、同訴外人の過失その他諸般の事情を考慮して別紙計算書記載の各金員が相当と認める。

車両損害については〔証拠略〕により、本訴請求外の治療関係費については成立に争いのない乙第一二号証により認める。

弁護士費用については、原告らが本訴追行を原告ら訴訟代理人に委任したことは記録上明らかであり、これに証拠蒐集の難易、被告の抗争の程度等の事情を考慮するとほぼ弁護士費用を除く認容額の一割程度が本件事故に基づく相当因果関係のある損害として被告に請求しうるものと認められる。

相続関係については当事者間に争いがない。

四  損害の填補

原告らが自動車損害賠償責任保険から合計金五、〇〇六、八〇〇円の支払を受けた事実は当事者間で争いがなく、その他に被告から三九万三四〇四円を受領していることは〔証拠略〕により認められる。

五  よつて原告らが被告に対し主文第一項記載の金員およびこれに対する記録上明らかな訴状送達の日の翌日である昭和四七年二月九日から支払済に至るまで民法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるので認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用については民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言については同法一九六条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐々木一彦)

計算書

(1) 葬儀費用 30万円

(2) 物損 1万5000円

(3) 治療関係費(本訴請求外) 13万3904円

(4) 亡林吉の逸失利益現価

170万円×(1-0.4)×3.5459=361万6818円

(5) 過失相殺 0.25

{(1)+(2)+(3)+(4)}×(1-0.25)=304万9291円(円未満切捨)

(6) 相続

原告あい子 3分の1 101万6430円(〃)

その余の原告ら 各6分の1 50万8215円(〃)

(7) 慰藉料

原告あい子 100万円

その余の原告ら 各50万円

(8) 損害の填補 合計 540万0204円

原告あい子 180万0068円 (残額21万6362円)

その余の原告ら 90万0034円 (残額10万8181円)

(9) 弁護士費用

原告あい子 2万2000円

その余の原告ら 1万1000円

(10) 認容額

原告あい子 23万8362円

その余の原告ら 11万9181円

別紙

<省略>

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